お侍様 小劇場 extra

    “陽だまり ネムネム” 〜寵猫抄より
 


この冬は積雪も気温の低さも記録的だという極寒で。
毎年“暖冬傾向”といわれてもその末にはどっさり降るのがセオリーだったので、
雪もふんだんで寒いなら もてはやされそうなスキー場や温泉宿が、
ここまで来る列車が停まってお客が来ないという顛末になっているのはなかなかに皮肉な話で。

『頼母さんところも、雪景色がそれは壮絶でしたものね。』

毎年正月には寄せてもらっている温泉宿のご亭が、
客なのに済まぬが手伝ってもらえぬかと頭を下げ、
居廻りや直近のバス停までの雪かきを手伝ったのは
初めての体験だったうえに なかなかいい運動だったなぁと思いだしつつ。

「…うにゃ。」

リビングの大窓から降りそそぐ久々の良い日差し。
それがフローリングの床を温め筒ある中、
陽だまりに丸くなって眠る仔猫たちのふにゃふにゃとした蕩けっぷりへ、

 「〜〜〜〜〜。/////////」

フローリングの床を綺麗な拳で連打しそうになっては堪えているのが、
毎度おなじみ、当家の家内を預かる敏腕秘書こと、金髪美人のおっ母様。
黒猫の弟分はまだ大人しい方で、
くりんと身を丸めての猫らしい箱寝というポーズに収まっているのだが。
大きさはさほど変わらぬが堂々の先輩、家人へ甘えるのも容赦ない
キャラメル色の綿毛のような毛並みも愛らしい、
メインクーンの久蔵くんの方はといえば。
寝ながら万歳を仕掛ったその身を やや“くの字”に曲げているという、
なかなかに大胆な寝相を決めておいでで。
しばらくはそのまま、毛並みをほわほわ温めていたものが、
ちょっともどかしいモゾモゾ、うにむにともがいてからの
そこからの寝返りという、なかなかに何度の高い芸当をやってのける一部始終、
固唾を飲んで見守ってた七郎次、

 「かっ、かわいいぃい♪」

もうもうどうしてくれようかと、
自分でも多少は困っているのだろう悩ましげなお顔になって、
フローリングの上へ座り込み、小さな愛し子らを飽くことなく眺めておいで。
確かに仔猫たちは可愛い。
寸足らずな身の丈を目一杯 生き生き弾ませて遊ぶ様も、
今そうしているように無防備にその身をとろけさせて転寝している姿も、
小さくて非力な存在の、幼さ健気さ儚さを
ふわふかな柔らかい毛並みでくるみ込んで
“さあどうぞvv”と供されているのだ、
どんなひねこびた人間であろうと、
お顔も緩めば 守ってやりたいという庇護欲も湧くというもので。
起こすのは忍びないけれど、いい子いい子と撫でてもやりたい。
何よりこのやわらかい毛並みに癒されたいと、
なかなかに厳しい葛藤に耐えつつ、
見守っておいでの優しいお人を、ちろりと薄眼を開いて見やったクロ殿。

 “まま、今の転寝は本気で寝不足の久蔵殿なれば。”

あんまり 弄ろうてやらなんで正解だと、
胸の底にてこそりと思う。

 “吐息まで切断して仕舞える練達だというに。”

大きな低気圧の襲来による、凄まじいまでの寒風吹きすさんだ夜陰の中、
寝床から起き出しての、大窓を抜けつつ本来の姿へ戻った大妖狩り殿。
七彩の小袖の上へ重ねた厚絹の導師服をひるがえし、
夜陰の奥底を見透かすように、その鋭い紅の双眸をさらに尖らせると、

 『……っ。』

薄い背に負うた細身の大太刀、すらりと引き抜き、
しなやかな脚をぐんと深く折り込んで張力を溜めると
慣れのない者には消えたよに見えただろう、それは凄まじい瞬発で、
寒風が吹きつけてくる風上目がけて翔ってゆき、

 ひゅっ・か、と

夜陰そのものを引き裂くように太刀を薙ぎ、
漆黒の更夜に銀の閃光が走ったその後へ、

 ぱん、と

粉雪が弾けたような白っぽい粉が、宙に散らされては消えてゆく。
一つ二つと次々に、時間差もって弾ける何かを、
母屋がかぶらぬよう、巨躯を盾にし守っていたクロ殿。
一通り、何かを切り裂いて鏖殺し、
風上にて すっくと立っていた痩躯の主が、
その口許から微かに漏らしていた白い吐息さえ、

 『…っ。』

玉砕覚悟で至近へ躍りかかった影があったの、
どうやって振り抜いたのかも見えなかった一閃にて、
一括して切り裂き、夜陰の中へ没させた辣腕ぶりよ。

 “剣先へ吊り込んだまま、
  引っ掛けつつ持ち上げたのまでは見えたのだけど。”

靄のようなものである吐息まで、その切り口も鮮やかに
すぱりと切り裂いてから消してしまった凄まじさ。
確かに見たからこその感慨も深げに、
こそりと苦笑をこぼしたクロ殿。
ちょっぴり寝不足な身を温める陽だまりの中、
無邪気な母上の嬉しそうな感情を
柔らかく察知しているお仲間なのも睡魔に負けて蕩けてしまい。
とろとろとお昼寝を堪能することにした昼下がり…。



   〜Fine〜  18.01.29.


 *なかなか寒い日が続きますね。
  室内にいる分には、ほかほかいいお日和なんだけどなぁ。
  久々のお猫様たちも日向ぼっこ堪能中です。

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